往復小説#2:松里鳳煌:サンタ

松里鳳煌:サンタ

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「サンタさん来るかな?」

今日はクリスマス。

街は色づき華やいでいる。

娘の父親が失踪して1ヶ月が経つ。

彼は何時もこう言っていた。

「俺は猫みたいに死にたい」

そういう意味だとは思わなかった。

届けは出したけど諦めている。


「俺が被災したら1週間もたないだろうな」

震災の報を聞く度に彼は言った。

映像を見ながら、まるで我が事のように苦痛に顔を歪め、被災中の病人を思い胸を痛めた。

私は彼の苦しみがわからなかったのかもしれない。

どこか怠けているだけじゃないのか。

心の奥底では疑っていたかもしれない。

それを気づいたのか、何時しか体調のことを言わなくなっていた。

「何が欲しいの?」

彼女は宅配便屋さんを”サンタ”と呼んでいる。

去年プレゼントが宅配便で届き、それを受け取ったからだ。

説明はしたけど、逆に彼女は確信した。

「それってサンタさんそものじゃない!!」

私はそれ以上、誤解を解く努力を止める。

以来、彼女は宅配便が来ると「私が出る!!」と言って一目散。

「サンタさんありがとう!!」

宅配便のお兄さんは、疲れた顔だったのに瞬間パッと輝かせる。

私は目で「すいません」という思いで見て頭を下げると。

「メリー・クリスマス」

4月だった。

彼は言った瞬間「しまった」という顔をしたが、娘の顔を見て、照れくさそうにそのまま手を振って帰った。

「サンタさんて面白いの持ってくるね~」

箱を包を開けるとペットボトルの水。

娘は「サンタさんの水」としていつも嬉しそうに飲んだ。



(もう家には着たくないだろうな)



先日、何時もの宅配便のお兄さんが来た時に娘は言った。

「あの・・・今度のクリスマスプレゼントはお父さんがいいなぁ」

彼は困惑する。

「こらっ!」

私は彼女を制したが、お兄さんの手を握る。

これまで付き合ってくれた彼だったが、さすがに困り果てている。

「いつも本当にごめんなさい。だからお兄さんはサンタさんじゃないのよ」

娘はいつの間にか父の写真を持ってきていたようで、それを彼に見せた。

「こういう顔!凄く優しいの!サンタさんみたいに!」

私は我慢の限界だった。

「いいから!」

引き剥がそうとする私から逃れ、泣きながら彼にしがみつく。

「本当にごめんなさい!いい加減になさい!」

ペタリと座り泣き叫ぶ。

「いいんです・・・いいんです・・・」

彼は眉をひそめ胸のつかえがとれないような顔をするも目を潤ませる。

何か言いたそうに口を開けるが、握りこぶしを作ると頭を下げ帰っていった。



娘はそんなことも忘れ今日はあっけらかんとしている。

私は気が重くなり、あれ以後、何時も頼んでいた水を頼まなくなった。



”ピンポーン”



呼び鈴が鳴る。

誰だろう?

「私が出るー!」

娘は脱兎のごとく走っていく。

何も頼んでいない。

最近は人さらいも多いとニュースで見る。

「ちょっと待ちなさない!」

クリスマス料理で手が離せない。

「もう!」

彼女は手を止め、火を消した。



「サンタさん沢山きた!!」



彼女は不機嫌そうに足を鳴らせ、エプロンで慌てて手を拭く。

玄関を見て呆然と立ち尽くす。



「メリー・クリスマス!」



見ると、赤いコスチュームを来た大勢の宅配便屋さん。

中央には何時も配達してくれる彼がいる。

「プレゼント届けてきてくれたー!!」

そこには失踪した旦那が。

「どうして・・・」

「写真を見せてもらった時、どこかで見たことがあるなぁと思って。ここにいる同僚にも話して力をかしてもらって・・・そしたら手伝ってくれるって、それで、今日も着たいって言うから・・・」

彼は満面の笑みと、目に涙を一杯ため、息せき切って言った。

その後ろに手を降るサンタ達。

「メリークリスマス!」

「メリー・クリスマ~ス」

「おっほっほっほ~、メリ~・クリスマ~ス」

「メリクリマス!」

「メリー・クリスマス・・・」

旦那にしがみつく娘。

浮浪者のように無精ひげを蓄え、髪が伸び放題になっている。

当頭部は抜け落ち、顔は真っ赤で皮膚はただれ、見る影もない。

でも身なりは几帳面な彼らしくしっかりしていた。

「お父さんもサンタさんになって帰ってきた~!」

一人はしゃぐ娘。

彼女は膝から崩れ落ちると言葉もなく号泣する。



少しすると、携帯からクリスマスソングが。



一つ、また一つと。

「あ、もしもし。はい、はい、わかりました。18時希望ですね、はい、はい、伺います」

それぞれが仕事の顔に戻る。

その声は弾んでいる。

「それじゃ、次のお届け先があるから」

出ていこうとする。

「待って!待って下さい!」

彼女はエプロンで無造作に涙を拭くと台所へ。

戻って来た手にはタッパーに入れた料理と缶コーヒー。

出来ているものだけ全部よそってきた。

「こんなものしかなくてごめんなさい」

渡そうとすると、娘は「私がやるー!」と言って母の手からサンタ達の手へ。

娘が元気よく「メリー・クリスマス!!」と。

サンタ達は顔を紅潮させた。

娘が「プレゼントありがとう!!」と言い、「ありがとう」と彼らが受け取る。

一人は涙を流し、一人は目に一杯ため、一人は下唇を震わせ、一人は晴れやかな笑顔で、最後に得も言われぬ表情の彼が受け取る。

「メリー・クリスマス!」

彼は深々と頭を下げた。

「メリー・クリスマス!!」

声にならない母のかわりに娘が応える。

走っていく。

旦那は捨てられた猫のように上目遣いで一言。

「ごめん・・・」

彼女は首をふって言った。

「メリークリスマス・・貴方、お帰りなさい。ごめんね・・・」

「・・・こっちこそ、すまない。メリー・クリスマス」

「メリー・クリスマス!!」

三人は思い思いの表情で抱き合った。





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